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DAO(分散型自立組織)とは ~法整備から国内外の動向までを解説~

DAOの定義
DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自立組織)は、ブロックチェーンと同様に組織の意思決定や運営の管理者を設置せず、参加者全員で管理する組織です。実際のところ、DAOについて統一された定義はまだ存在していませんが、政府が2022年6月に閣議決定した、デジタル庁による『デジタル社会の実現に向けた重点計画』では以下のように定義されています。
DAOとは、運営会社や代表者・取締役会などが存在せず、参加者が自律的に運営を行う組織である。DAOの運営ルールはスマートコントラクトによってコード化され、これによって意思決定が反映される。
※出典:『デジタル社会の実現に向けた重点計画』第5 デジタル化の基本戦略 7.(1)④(55頁)
DAOの要件
DAOを組成するうえで必要な要素は以下の通りです。DAOはスマートコントラクトでの自動処理を前提とした仕組みであり、それを介さないと透明性が失われ、既存の中央管理的な組織に近くなります。
- 匿名で参加できること。
- コミュニティが資金やプロジェクトを管理できること。
- スマートコントラクトによって、資金管理や投票集計など大半のプロセスが自動で実行されること。
※技術的にはブロックチェーンを使わなくても実現可能ですが、情報の透明性という点でほぼ必須です。
DAOのメリット
DAOの特性であるブロックチェーンやスマートコントラクトはマーケットプレイスの信頼性を向上させ、プライマリー、セカンダリーマーケットの編成が容易になります。その他にも透明性と健全性が担保され、管理・実行コストを低減するというメリットがあります。さらに、海外の人たちがNFTなどを容易に購入できるため、既存のマーケットでは評価されにくかった領域に人とお金が集まることが期待されます。
DAOの法整備について
日本政府はWeb3.0の推進を目指し、法整備を進めています。2022年6月7日に閣議決定された『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』では、Web3.0推進に向けた環境整備が盛り込まれました。これに基づき、『デジタル社会の実現に向けた重点計画』の工程表では、2022年度から2025年度にかけて各種法的位置付けを整理することが予定されています。
2023年4月6日には、自民党デジタル社会推進本部のWeb3プロジェクトチームが「Web3ホワイトペーパー 誰もがデジタル資産を利活用する時代へ」を作成し、部会で了承されました。このホワイトペーパーは27の提言から成り、国内外で大きな注目を集めました。その中では、DAOの有限責任の確保と法的な整備、金融機関のWeb3.0参入時の法的支援、投資DAOの法制整備が提案されています。
特に、DAOの構成員に有限責任を確保するため、特別法を制定し、合同会社をベースにしたLLC型DAO(合同会社DAO)の法制度を整備することや、DAOに対して金融商品取引法上の規律を一部変更して適用し、迅速かつ機動的な運営を可能にすること、早急な法整備を目指し、必要に応じて議員立法も検討することが議論されました。
2023年11月15日には同プロジェクトチームからDAOルールメイクハッカソンが開催されました。ここでは、DAOを設立する理由や、既存の法人格に属さない理由の明確化、金融商品取引法との関係や、既存の法律からの逸脱がないかなどが議論されました。2024年には「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」が新たに公表され、合同会社DAOに必要なトークン化された社員権について記載されている案が示されました。
これらの活動により、2024年4月22日には、合同会社型のDAO(分散型自律組織)を設立することが可能になりました。さらに、2024年のホワイトペーパーでは、合同会社型DAOの実務的な課題の解決、合同会社以外の法形式のDAO適用の明確化、海外のDAO法制との相互運用性の確保と税務上の優遇措置が提言されています。
web3 ホワイトペーパー~誰もがデジタル資産を利活用する時代へ~(要旨・案)2023年4月
web3ホワイトペーパー2024~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ~(要旨)2024年4月
国内でのDAOの動き
ここまでの話から現在日本では国が主体となってDAOについての取り組みが活発におこなわれています。2024年5月現在、その中でも注目すべきトレンドとして、設立が可能になった合同会社型DAO、そして日本DAO協会の設立が挙げられます。
合同会社DAO
合同会社DAOとは、日本の会社法に基づく合同会社の枠組みを利用しつつ、分散型自律的な運営を行う新しい組織形態です。トークンで運営されるビジネスやプロジェクトに明確な法人格を付与できるようになり、DAOが契約の主体となったり、不動産を保有することが可能になります。
日本DAO協会
日本DAO協会とは、2024年4月1日に設立された政府と共にDAOの発展に必要な環境整備を行うための一般社団法人です。参加者は弁護士や会社員、起業家や主婦、学生など様々なメンバーが集まり活動しています。DAOが健全に発展できる仕組みを作り、世界へ影響を与えるモデルケースの作成やDAOやツールの認証、定款・諸規則の雛形提供などを行います。協会設立により、より一層DAOが認知され、開設や発展が期待されています。
海外でのDAOの動き
海外でも同様にDAOについての動きは活発です。アメリカのユタ州ではユタDAO法が2023年3月1日に可決、2024年に施行されました。DAOに法的承認と有限責任を与えるものであり、日本のDAO法との違いの一つとしてその匿名性が挙げられます。ユタ州のDAO法では、参加者を匿名にすることができます。
また、設立者の公表は義務付けられているため、これによって「DAOの匿名性と説明責任のなさ」を解消しています。
ワイオミング州では2024年3月7日にDAOに法的地位を与える法案が可決されました。この法律は「分散型非法人非営利団体(DUNA)」という既存の非法人非営利団体(UNA)をモデルにした団体区分の創立を認めるものです。この法律によってDAOメンバーに対する責任保護を提供しつつ、第三者との契約締結や銀行口座開設、税金の支払いを可能にします。
国内DAO事例集
DAOについての概要やトレンドが把握できたところで、最先端な活動をしている国内のDAOの一例をご紹介いたします。
日本DAO協会
日本DAO協会は先ほどの説明の通り、DAOの発展に必要な環境整備を行っている一般社団法人ですが、この運営方法としてDAOが使用されています。会員は「社団会員」、「評議会員」、「賛助会員」の3種類に分かれ、理事の権限はDAOに委任するため、メンバーシップトークンを持つ評議会員による投票で意思決定がなされます。
山古志住民会議
新潟県山古志地域が組成したDAOです。「山古志住民会議」と呼ばれ、「錦鯉NFT」や「デジタル村民」などのワードで注目を集めた組織です。長岡市公認のもと発行されるNFTは、山古志のシンボルである錦鯉をデザインしたデジタルアートであり、電子住民票としても使用されます。このプロジェクトの目的は山古志の維持存続であり、800人の住民と10,000人を超えるデジタル村民が協力して行う地域振興とWeb3.0が結びついた試みです。この取り組みは令和5年度過疎地域持続的発展優良事例表彰において総務大臣賞を受賞しています。
塩尻(Shiojiri) DAO
2024年5月1日に長野県塩尻市から「DAO先行実験地域」として指定された塩尻DAOは、地域活性化のためのDAO組織です。塩尻市が運営する「塩尻産業・情報交流センター」で活動しており、塩尻の特産品や観光地、文化などの情報を集約し、DAOによって共有、発信します。メンバーには地元企業や商工会、自治体関係者が参加しており、プロジェクトを提案し、トークン保有者による投票で採択される仕組みです。観光客や移住者を増やすことを目指しています。
美しい村DAO
「日本で最も美しい村」連合に加盟する鳥取県智頭町と静岡県松崎町が主体となり交流人口増加を目的に始めたのが美しい村DAOです。DAOのメンバーであるデジタル村民と地域のメンバーが共創し、地方の活性化・関係人口の増加を持続的に続け、持続可能な社会の実現を目的としています。NFTであるデジタル村民証を購入することによってメンバーになることができ、現地の宿泊施設の割引や地域資源体験サービスの企画に参加することなどができるようになります。
Ninja DAO
Ninja DAOはCryptoNinjaをメインキャラクターとしている日本最大級のDAOです。CryptoNinjaとは利用ガイドラインに乗っ取れば商用利用も可能なWeb3.0時代のキャラクターブランドです。CryptoNinjaの利用者が集まり、Ninja DAOを動かしています。
2023年10月にはDAO内プロジェクトからのアニメ化もされており、その他にもゲームや漫画化など様々なプロジェクトが立ち上がっています。
JAPAN DAO
JAPAN DAOは150ヶ国以上のメンバーで運営されている世界最大級のDAOコミュニティです。主題歌やキャラクター、漫画がコンテンツとして存在し、「行くぞ!JAPAN DAO!!」という合言葉のもと、日本文化の魅力を世界中に広めています。
まとめ
現在日本だけでなく、世界中で政府や地方自治体、民間企業、地域コミュニティなど、さまざまな組織がDAOの導入や活用に取り組み、新たな組織形態として、様々な分野での活動やイノベーションが期待されています。
山古志村のように地域振興や地域活性化に貢献する一方で、新たな経済活動や文化の創造、地域社会の連帯感強化など、多岐にわたる効果をもたらしています。
さらに、ホワイトペーパーに記されているように、日本はDAOを含むWeb3.0の中心国となるために、世界でも有数の事業環境が整備されつつあります。ホワイトペーパー2024のサブタイトルのように“新たなテクノロジーが社会基盤となる時代”はそう遠くないのかもしれません。
筆者:次世代デジタル基盤開発事業部 速水 貴大
監修:次世代デジタル基盤開発事業部 鈴木 康男